【感想】読解力の強化書(佐藤優著、クロスメディア・パブリッシング)

 

【『読解力の強化書』】

 

読解力の強化書

読解力の強化書

  • 作者:佐藤優
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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人生に必要な「読解力」について書いた本です。

 

日本人の読解力が落ちているのではないかという問題提起から始まり、実際の社会のできごと(コロナ報道、AI、SNSなど)を交えながら問題点が述べられます。

どのようにして読解力を高めればいいか、については具体的な文献を挙げながら丁寧に解説されています。

 

 

【ざっくり感想】

 

SNS全盛時代の今だからこそ、自分の思考に偏りがないか、論理力不足がないかを点検するべきだと思います。本書は、そのきっかけになる良書です。

 

SNSの仕組み上、フィルター機能がかかって耳ざわりのいい意見ばかり入ってくるのは仕方ないですが、そこを自覚して情報収集をしたり、異質な意見の裏にある考え方を探る努力はしていきたいところ。

 

本書で引用されている『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)にも書かれていましたが、簡単な文章でさえ正確にその意味を汲み取れない学生が増えているそうです。

 

 

本のタイトルには「子どもたち」とありますが、大学生・社会人の読解力不足も取り上げられています。

AIには読解力がない ⇒ 読解力がない人はAIに取って代わられる、と考えるとこれは決して他人事ではなく、「文章がちゃんと読めているか」が人生にかかわる問題なのだと認識できました。

 

 

【本を読むほど思考が偏る】

 

 むしろ情報や知識にたくさん触れているのに、自分の考えや先入観に凝り固まり、他人の意見や自分とは異なる考え方を聞き入れようとしない人が増えているように感じます。

 素直にテキストを読まない、素直に人の言うことを聞かない。自分の考えが先にあって、異質なものを受け入れない。たくさん本を読んでも、情報に触れても、自分に都合のいいものだけを受け入れ、都合の悪い情報は捨ててしまうのです。

 これでは本を読むほど、情報を集めるほど、思考が偏ってしまいます。 (本書P.22より引用)

 

 「読解力」とは、できる限り偏見なく情報を受け入れ、対象を認識し理解することです。対象がテキストであれば文意を理解し、行間を読むということですし、人間であれば相手の主張や立場を理解し、相手の論理で考えるという「思考の幅」を持つことです。 (本書P.23より引用)

 

第1章の最初からこの内容です。ずばり本質を突いている文章だと思います。

頭ではわかっていても、なかなか実行できない人は多いのではないでしょうか。

 

ここでいう「素直にテキストを読む」ということがいかに難しいか。知識不足もそうですが、論理力不足で文意を読み取れていないケースもあります。そんな状態では、書かれていることをそのまま理解することもできないでしょう。

 

学生で言えば「教科書がちゃんと読めない=どれだけ勉強しても内容が身につかない」ということになります。考えてみると恐ろしいですよね。

 

本書で引用されていた『論理トレーニング101題』(産業図書)を私も購入してトレーニングしていますが、文の接続関係をちゃんと読み取ったり、論証をとらえることって簡単ではないです。思った以上に疲れますし。

 

 

 

【相手の内在的論理を知る】

 

 いまや、社会の構造自体が「読解力」を妨げ、異質なものに対する耐性を失わせるようにできている。そのことを意識し、意図的に異質なものに対する耐性を高め、「読解力」を高めなければなりません。

 一番手っ取り早く、確実なのは、自分とは立場も考え方も異質な人物とつき合うことです。人種、性別、年齢もそうですが、職業、趣味嗜好、思想信条の違う人とつき合ってみるのです。 (本書P.47~48より引用)

 

Twitterで例えれば、「何言ってんだこいつ」から一歩踏み込んで「こいつはなんでこんなことを言う・行動するんだろうか」と相手の立場に立って考えてみる、ということでしょう。

 

ネット上でやり取りしてもなかなか思考パターンまでは読み取れないかもしれません。やはり身の回りの人と向き合うのが良さそうです。

 

本書では「優れた小説」(P.50)を挙げており、この方向で学んでいくのもいいですね。

 

ではでは。