dandeです。
久々の読書記事になります。
書評を書きたくなるぐらいには良書でした。繰り返し読んだこともあり、購入から書評までずいぶん時間が掛かってしまいましたが。
目次
【会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語】
会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語
- 作者: 田中靖浩
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2018/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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【本書の全体の流れ】
本書は、タイトルのとおり、会計の歴史について書かれており、15世紀から21世紀までを対象としています。
「減価償却」「のれん」などの会計特有の用語は出てくるものの、会計の知識が無くても理解できる内容となっており、絵画・音楽などを絡めた記載もあるので、読み物としても面白いです。
※ 私は、簿記2級程度の知識でこの書評を書いています。記載内容に理解不足な部分や認識違いがあるかもしれませんが、ご容赦ください。
本書の全体の流れをまとめると、おおむね次の通りになります。
【15世紀 イタリア】
取引記録を付ける(帳簿を付ける)「簿記」が誕生。
【17世紀 オランダ】
株式会社(東インド会社)の登場により、株主への報告としての「会計」が誕生。
【19世紀 イギリス】
蒸気機関車・鉄道会社の登場により、株主の存在が大きくなったため、「自分(=経営者)のために付けていた帳簿」が「他人(=株主)のための決算書」へ進化。
【20世紀 アメリカ】鉄道が急速に発展し、鉄道会社に多額の投資マネーが流れ込んだが、1929年の世界恐慌により投資家は莫大な損失を被る。
その反省から会計ルールが改正され、「投資家保護」の考え方が誕生。
これにより、会社は、債権者・株主だけでなく、社会的責任(パブリックな責任)も負うこととなり、「他人のための」財務会計が発展。
【19世紀~21世紀 アメリカ】製造業が「同質の製品を大量生産する」方向へ舵を切ったため、製品の製造にかかる製造原価の計算(「原価計算」)が重要となり、製造コスト削減のために予算管理を担う「管理会計」が誕生。
これにより、「会計」は、「過去の実績の計算」にとどまらず、「将来利益のシミュレーション(損益分岐点分析、利益計画など)」も可能となり、「自分のための」管理会計が、財務会計と並行して発展。
【21世紀 グローバル】
通信・IT技術の発展により、金融資本市場がグローバル化し、「国際会計基準」が誕生。
「投資家への情報提供」の重要性が増し、「他人のための会計」がさらに発展。それと並行して、「M&A」の増加により、「原価」よりも「価値(リターン)」を重視する「ファイナンス」の考え方が誕生。
「ファイナンス」の考え方では、「将来リターン」が「企業価値」の指標となるため、将来利益の計画を担う「管理会計」とともに、「ファイナンス」理論が発展。
【現在の会計のかたち】
【会計の全体像の把握に役立つ】
本書を読んで、「財務会計」「管理会計」「ファイナンス」という会計の全体構造をつかめたのは良かったです。
これをきっかけに、個別の会計処理や、理論を学ぶのもおもしろいかもしれませんね。
また本書は、世界の歴史の流れと関連させながら会計の歴史を説明しているので、会計用語に対しても、具体的なイメージを持つことができました。
【減価償却、発生主義会計】
「減価償却」の生まれたきっかけが「蒸気機関車」だったことは、初めて知りました。
そして、「減価償却」という考え方が採用されたことで、会計上の儲けの計算が「収支(収入-支出)」から離れ、「利益(収益-費用)」という形で計算されるようになったということも。
簿記を学ぶときに恐らく誰もが引っ掛かる部分であろう「発生主義会計」もここから生まれてきたようです。
以下、「減価償却」「発生主義会計」について説明した箇所を引用します。
キーワードは、「固定資産」(建物、機械、車両、土地など)です。
【減価償却】(164~165頁)
鉄道会社の場合、あまりにも固定資産への投資が大きく、この支出を家計簿的に処理してしまうと、「投資した期は赤字」になります。
反対に「投資がない期は黒字」。・・・(略)・・・
蒸気機関車をつくるのにかかる巨額の支出は全額「支出した期」に負担させるのではなく、そこから数年かけて「費用」として負担させる。そんな「減価償却」によって費用が平準化されます。
これによって巨額の固定資産投資をしても「儲け=利益」が出やすくなります。
【発生主義会計】(166~167頁)
もともと会計は「お金の計算」からはじまっています。なんだかんだ言っても会計はゼニ勘定が原点なのです。それは「収入-支出=収支」がもうけの計算の”基本”であるということです。
その収支計算から離れ、儲けの計算が「収益-費用=利益」という小難しい体系へ「進化」するキッカケは、鉄道会社による減価償却の採用だったように思います。
減価償却ができるなら「将来の支出を前倒しして数期の費用に配分する」こともできるはず(=引当金)。あるいは前払費用、未収収益といった、「収入・支出」を「収益・費用」へ配分する計算も行うべきではないか。
長期工事で受け取る「将来の収入」を前の期間に収益として配分する工事進行基準だって認められるぞーーこうした「利益」への進化は止まることなく、のちの世に登場する時価会計や減損会計まで突っ走っていきます。こうした収支から利益への進化を「現金主義会計から発生主義会計への移行」といいます。
【キャッシュ・フロー計算書】
上記のような発生主義会計は、21世紀の現在においても儲けの計算のフレームワークとされており、それを反映した書類が「損益計算書(P/L)」です。
その後、M&A(企業買収)が増加したことで、キャッシュへの「原点回帰」が起こります。それを反映した書類が「キャッシュ・フロー計算書(C/S)」です。
以下、「キャッシュ・フロー計算書」について説明した箇所を引用します。
出だしから「EBITDA」という怪しげな会計用語が登場しますが、後で内容説明を追記するので、さらっと読み流してください。。
【キャッシュ・フロー計算書】(264~265頁)
EBITDAが1990年代から増加したM&A取引において注目されるようになったのは、それが「キャッシュに近い」利益であるからです。
M&Aにおいて重視されるのは各国発生主義会計の複雑怪奇なルールで計算される利益ではなく、「どれだけ金を稼いだか」というキャッシュです。つまりEBITDAの登場は、M&Aの増加に伴う「キャッシュへの回帰現象」でもあったのです。・・・(略)・・・
ここでキャッシュフロー計算書の位置付けについては注意が必要です。
キャッシュフロー計算書を「会計基準の国際化に伴って新たに登場したもの」と理解している方が多いようです。
それは間違いではありませんが、少々表面的な理解にすぎるかもしれません。歴史を見ればわかるとおり、19世紀初めの鉄道会社からはじまったキャッシュから利益への「進化」が、200年ぶりにキャッシュへ「回帰」しているのです。発生主義の名のもと、どんどん難しく、ややこしくしていった「利益」を久しぶりに家計簿的なものに戻そうとする会計の「原点回帰」がキャッシュ・フロー計算書だということです。
上記にある「EBITDA」は、「Earnings Before Interest,Taxes,Depreciation,&Amortization」の略称で、「利息・税金・減価償却費・償却費」を控除(引き算)する前の利益のことです。
利息・税金・減価償却費・償却費は、国の経済状態や税法によって金額が異なるので、それらを控除する前の利益であれば、「その会社本来の儲け」を表現できるという意図で、会計指標の一つとされています。
ちなみに私が「EBITDA」を初めて知ったのは、ソフトバンクの株主総会です。
孫社長の口から何度も「イービットダー」という言葉が出てきて、最初は何のことを言ってるのかさっぱり分かりませんでした(笑)
上記のキャッシュフローへの回帰から、将来キャッシュフローが「企業価値」の算定基準となり、ファイナンス理論の発展につながったという流れは興味深いものがあります。そしてこれが、企業買収でよく出てくる「のれん」(379頁)に繋がります。
【企業価値、ファイナンス】
「企業価値」「ファイナンス」の位置付けについて、本書で触れられている部分(387~388頁)を引用します。
ファイナンス理論から飛び出した「企業価値」の概念は、簿記や決算書に対する500年にわたる不満の爆発だったのかもしれません。
会計といえばずっと「過去の後追い」であり、そのことに経営者や投資家たちはずっと不満をもっていました。そこからまず一歩踏み出して殻を破ったのが管理会計です。
「過去」の結果しか示さない財務会計の決算書に対して、管理会計は予算によって「未来」計画への道筋を開きました。
さらにファイナンスは「未来」のキャッシュフロー予測の手法によって企業価値の計算を可能にしました。
この流れが進み、ついに財務会計にもファイナンス理論の考え方が取り入れられるようになってきたことが説明されます。
以下、その部分を引用します。
【財務会計とクロスオーバーする「価値」思考】(390~391頁)
アメリカの20世紀にはさまざまな音楽ジャンルのクロスオーバーが起こりましたが、会計界でもクロスオーバーが起こりはじめました。
ファイナンス理論で培われた「将来キャッシュフロー」概念が、財務会計上の決算書ルールに影響を与えはじめています。
すでに説明したM&Aにおける企業買収時に計上される買収「のれんの償却」にそれが垣間見えます。
国際基準のIFRSでは買収プレミアムである「のれん」について「償却不要」としています。
しかしこれはあくまで減価償却的な「規則的償却」を不要としているだけで、買収会社の「将来キャッシュフロー」が著しく下落した場合には減損処理を求めています。
つまり、「価値」が下落した場合にはその下落分を一気に減損処理しなさいということであり、この背景にファイナンス理論があることは明らかです。
これと同じような処理を事業資産について適用するのが減損会計です。
減損会計が登場する以前、工場や賃貸用ビルなどの事業資産は「取得原価から減価償却費を差し引いた帳簿価額」で評価されていました。減損会計の導入によってその続きのプロセスができました。
もし仮にその資産の「将来キャッシュフローの見積もり」が著しく下落した場合は、その額、つまり「価値」相当額まで評価額を引き下げ、評価損を計上しなければなりません。
この減損会計にも明らかにファイナンスの「価値」思考が入り込んでいます。
【まとめ】
上記のように、財務会計においても将来的な価値が考慮されるようになりました。
会計のもともとの趣旨(取引の記録)から考えれば、かなり発展していることがわかりますが、それも約500年の間に起こったことで、歴史としてはそう長いものではありません。
歴史の流れと会計の体系的な説明がされている本は、これまでにもありましたが、本書は会計に詳しくない方にもわかりやすくまとめられており、時間のある方はぜひ一読ください。
ではでは。