【『栗山ノート』】
現・日本ハムファイターズ監督の栗山英樹氏による著書。
文体は読みやすいですが、中国古典の引用が多く、それが苦手な方は読みづらいと感じるかもしれません。
【総評】
プロ野球監督という仕事の中で、日々書き続けてきた「野球ノート」に基づき、自身の人生観を綴った本。
中国・日本など古今東西の古典が引用されており、古典の入門としても読めます。
栗山氏は教員免許を取得しており、らしさが出ている内容です。
さらに、実際の試合のシチュエーションを交えながら書かれているので、パ・リーグの野球を観戦している方にとっては、より楽しめるものになっています。
【内容と感想】
プロ野球監督経験者が書いた著書を取り上げるのは、元・中日ドラゴンズ監督の落合博満氏が書かれた『決断=実行』以来。
応援している球団以外にも、自分が好きな選手や監督は多いので、目に留まる本があれば立ち読みしたり購入したりしてしまいます。
落合ドラゴンズの野球と栗山ファイターズの野球は、それぞれに特色があり、著書の内容にもそれが表れているので、あわせて読むとまた面白いかもしれません。
日本ハムファイターズは、各選手の個性が際立っていて、お互いに切磋琢磨しつつも仲の良いチームという印象があります。
栗山監督もなかなか個性的な方で、大谷翔平選手の二刀流であったり、オープナーの採用であったりと、新しい戦術に批判を恐れず挑戦していく姿勢が顕著です。
本書の「深沈厚重」の頁(P.152)にも、「二刀流」への批判に対する考え方が書かれていました。
「深沈厚重」とは、中国の儒学者である呂新吾の『呻吟語』に書かれた言葉とのこと。
自分の評価、評判、噂などを気にすると、人間は集中力を欠いてしまいます。プロ野球選手ならば、メディアの批判に一喜一憂する選手は、プレーに波があります。自分の進むべき道を、ひたむきに真っ直ぐ歩いている選手が成功をつかんでいる。(本書P.150より引用)
誰かが「これは良くない」、「これは悪だ」と言うのは、その人の感覚に左右されているところがあります。
感覚ではなく客観的材料をもとに評価を下す人は、相手が納得できる材料を提示できるはずで、単に「これはダメだよ」と指摘するだけの人は自分の感覚や価値観にそぐわないから否定をする――そうやって考えると、周りの意見が気にならなくなりました。
文句を言われても落ち込む必要はない。
「どうしてそういうことを言われたのか」について想像力を働かせて内観して、そのあとは深く苦しまなくてもいいのだと、今は感じています。 (本書P.152~153より引用)
印象に残る言葉は多数あったのですが、個人的には「稚心を去る」ですね。
江戸時代の思想家の橋本左内が『啓発録』に収めた志とのこと。
橋本左内が書き残したように、人間の成長を妨げるのは「子どもっぽい心」、「大人になりきれていない心」です。端的に言えば「わがまま」が原因であることがとても多い。自分の思いどおりにいかなかった、ミスをしてしまった、批判された、と言って現実にぶつかると、直情径行になってしまう。
プロ野球チームという組織は、結果が出ていれば「大人の心」が大きくなる。「チームのために」という自己犠牲を、迷わずに発揮していく。
難しいのは低迷期でしょう。結果には原因があり、負けた試合では打たれた選手、打てなかった選手、失点につながるミスをした選手などが、はっきりとあぶり出されます。ミスをした選手を誰ひとり責めることはなくても、黒星が行列を作ると「次こそは勝つぞ」という闘志が萎んでいき、自分本位の感情の温度が上がっていくものです。
結果が出ていないときに、どうやって「大人の心」を引き出せるか。しなやかな反発力や重みのある忍耐力を持った、稚心のないチームを作り上げていきたいものです。 (本書P.208~209より引用)
私自身まだまだ稚心が抜けないので、心がけていきたいものです。
ではでは。