dandeです。
今回は、読書記事。
小説です。
※ 小説の全体像について触れるので、未読でネタバレを避けたい方はブラウザバックをお願いします。
目次
【『逆ソクラテス』】
5つの短編からなる短編集です。
「逆ソクラテス」という言葉は、短編のうちの一つのタイトル。
ソクラテスの有名な言葉として挙げられる「無知の知」の反対語の意味とされ、「先入観で人を評価すること、決めつけること」を指していると思われます。
本書の主人公は子どもたちで、大人たちの先入観にささやかな抵抗をするという短編から始まります。
大きな事件はほとんどなく、大きな伏線も特にありません。
【感想】
帯の雰囲気(「最高の読後感!デビュー20年目の真っ向勝負!」)に引っ張られて読みましたが、痛快なエンターテイメントを期待すると出鼻をくじかれます。
「子どもたちにとってとても重要な事であっても、大人にとっては些末なことにすぎない」といったことはよくあることです。
「子どものときは人生に関わる重大事だと感じていたことも、大人になったら大したことではなかった」というのも同じですね。
本書は、子どもたちを主人公としながら、彼らの未来を書いたページもあり、子どもと大人の両方の視点から書かれている物語です。
子どもたちの視点で書かれた部分は小さい出来事が多く、なかなかページをめくるペースが進みませんでした。これは仕方のないことです。
読後も少しモヤモヤ感が残りましたが、「あとがき」を読んだとき、胸にストンと落ちた気がしました。
そのあとがきを一部引用します。
少年や少女、子供を主人公にする小説を書くのは難しい、と思っていました。今も思っています。子供が語り手になれば、その年齢ゆえに使える言葉や表現が減ってしまいますし、こちらにその気がなくとも子供向けの本だと思われる可能性があります。懐古的な話や教訓話、綺麗事に引き寄せられてしまうのは寂しいですし、かと言って、後味の悪い話にするのもあざとい気がします。
どうしたら自分だからこそ書ける、少年たちの小説になるのか。自分の中にいる夢想家とリアリスト、そのどちらもがっかりしない物語を、ああだこうだと悩みながら考えた結果、この五つの短編ができあがりました。 (本書 あとがき より引用)
そうか、本書は「バランスを取った」んだなと。
『シーソーモンスター』のような直球の夢想家的なものではなく、『フーガはユーガ』のように少し後味の悪いものでもないバランスの取れた作品になったということなのかな、と理解しました。
たまにはこういうのもいいかもしれませんね。
と、モラトリアム全開の『砂漠』が好きな私は思うのでした。
ではでは。