dandeです。
今回は、読書記事。
伊坂幸太郎氏の小説を取り上げるのは、『シーソーモンスター』以来。
デビュー作から好んで読んできた作家さんで、今回の『砂漠』も例に漏れず、大学時代に一度読んでいます。
当時は、独特なキャラクターと、モラトリアムな時期特有ののんびりした雰囲気が好みで、ドハマりしていました。
いま読み直してみると、その時の感情を思い出しつつ、また違った視点で見えてきますね。
目次
【『砂漠』】
500ページほどあり、一見長編小説のようですが、読み始めるとあっという間に読めてしまいます。
【感想】
「大学時代」という、「社会に出る一歩手前」でありながら「自由」な時期を淡々と綴っていく青春小説。
「春」「夏」「秋」「冬」という4編構成になっていますが、全編に共通する特別な事件がある訳でもなく、物語は進んでいきます。
読み終えて最も感じるのは、「砂漠」というタイトルの絶妙さです。
砂漠を「水がない厳しい環境」として捉えれば、それは「社会」を想起させます。
それに対し、砂漠を「何も邪魔するものがない場所」と捉えれば、それは「自由」の象徴となります。
一見、真逆のように思える「社会」と「自由」を「砂漠」という言葉で結び付け、大学時代というモラトリアム期を表現したのはさすがの一言です。
伊坂作品によく見られる大掛かりな伏線・どんでん返しはありませんが、終盤の痛快な展開は、伊坂作品らしいものになっています。
各キャラクターの変化が描かれている点もいいですね。
訳知り顔で「鳥瞰型」「論理的」と言われた主人公(?)の北村は、世の中には論理だけでは説明できないものがあることに気づいていきます。
僕はそこで、ずっと前に西嶋が、「終わった後で身悶えするのが麻雀じゃないか。確率だなんだと分析するのは、麻雀ではなくて、ただの計算じゃないか」と主張していたのを思い出した。
確かに、生きていくのは、計算やチェックポイントの確認じゃなくて、悶えて、「分かんねえよ、どうなってんだよ」と髪の毛をくしゃくしゃやりながら、進んでいくことなのかもしれない。 (本書P.324)
西嶋は、登場人物の中で一番個性的で、北村とは対極にいるようなキャラクターなのですが、終盤にかけて少しずつ変化していきます。
他にも、いわゆる「チャラ男」キャラも、ある事件をきっかけに変わっていきます。
自由を与えられて日々迷いながら生きる登場人物を見て、自分の生き方であったり、将来であったりに思いを馳せるのもいいでしょう。
文庫版「あとがき」も、面白い内容になっています。
ぜひ読んでみてください。
人生、モラトリアム。
ではでは。