感想『暗号解読(下)』(サイモン・シン著、新潮文庫)

dandeです。

 

今回は、以前に書いた ↓↓↓ の記事の続きです。

1ヶ月ほど経ってしまっていますが、気にしない。

 

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昨日のニュースで、「Google が量子コンピューターによるスパコン超えの速度の計算に成功した」という記事が出ていました。

本書は、量子コンピューターの可能性について終盤で触れており、非常にタイムリーな内容になっています。

 

 

 

 

【『暗号解読(下)』】

 

 

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

 

 

 

【ざっくり感想】

 

 

太平洋戦争、古代エジプトの神官文字、公開鍵の誕生、量子コンピューターの概念まで、内容が幅広いです。

 

本書は10年以上前の本であり、暗号通貨については直接の言及はありませんが、公開鍵の仕組みの説明はしっかりされています。「量子通貨」なる概念が挙げられていました。

 

ネット銀行・ネットショッピングが一般化した昨今において、暗号技術は必須のものとなっており、量子コンピューターによりそれらが破られる(崩壊する)可能性があることを示した本書は、現代に生きる人たちの必読書と言えるでしょう。

 

ただ、量子コンピューターについて触れた部分は多くなく、詳しく知るためには別の本を手に取らないといけないとも思います。

 

 

【ざっくり内容】

 

 

以下、本書の内容について、ざっと要約しながら書いていきます。

 

電気機械式暗号機は、安全性は高かったものの、根本的な弱点として、暗号の作成と復号に非常に時間がかかるため、熾烈な戦線では使えないという問題がありました。

 

そこで、太平洋戦争において、米軍が使った暗号は、少数民族であるナヴォホ族の言語を使ったものでした。ナヴァホ族の言葉は、他の部族や他の人間にはまったく理解不可能なものだったそうです。

 

民族の言語なので、情報のやり取りが迅速・容易でありながら、他人には解読できないという情報の非対称性を利用した暗号です。

 

ナヴァホ族は、親アメリカ主義が色濃く存在しており、アメリカは彼らを暗号兵として雇い、後に「ナヴォホ・コードトーカー」と呼ばれました。【コード・トーカー】というと、遊戯王っぽく聞こえますね。

 

 

そして、話題は変わり、古代エジプトのヒエログリフを解読する考古学者の話に。

 

ヒエラティック・テキストと聞けば、反応する決闘者は多いでしょう。

他にも、ファラオ、神官文字、オシリス、プトレマイオスなど、決闘者になじみの深い言葉がぞろぞろ登場します。

 

 

その後、再び話題は暗号機の話に。

 

上巻で登場したエニグマ機から発展して、コンピューター暗号が登場します。

 

コンピューターを使うことで、単純に速度が向上したほか、二進数を用いることにより、スクランブルをかける対象がアルファベットではなく数になりました。

数を対象とすることで、暗号化のスピードが上がり、ごく簡単に暗号化できるようになりました。

 

そして、暗号の標準形式として、DES が登場します。DESで暗号化されたメッセージは民間のコンピューターでは事実上解読不能なものでしたが、「鍵配送問題」に突き当たることとなります。

 

いわゆる盗聴者やハッキングへの対策ですね。

 

「鍵配送問題」の解決のため、数学者たちは苦戦します。

 

行き着いた先は、双方向関数ではなく、一方向関数でした。一方向関数は、作用させるのは簡単ですが、解除するのは非常に難しいという性質を持ちます。

 

ここで登場するのが「モジュラー算術」。時計をイメージした計算のことですね。

 

前著『フェルマーの最終定理』でも大きく取り上げられた算術です。

 

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これを根拠とした鍵交換システムが考案され、暗号をやり取りする者は、秘密の鍵を取り決めるために直接会う必要はないことが証明されました。

 

 

そこから発展して生まれたのが「公開鍵暗号」です。

詳細は省略しますが、「公開鍵暗号」の登場により、復号に使う個人鍵を保管してさえいれば、盗聴を恐れずに、安全にメッセージのやり取りができるようになったのです。

 

そして、上記の一方向関数は、最終的に素数に落ち着きます。

素因数分解は、中学校でも習う基本的な数学知識ですが、「暗号の安全を支える根本が素因数分解の困難さにある」という事実に驚きました。

 

素数の謎については、上記の『フェルマーの最終定理』にもしっかり描かれているので、あわせて読むと理解が深まります。

 

素数の桁数を増やすことで暗号の強固さは加速度的に増していき、現在のコンピューターでは事実上解読不可能な暗号を作ることができます。

 

 

ただ、絶対に安全だといえないのは、いつか誰かが、今よりも素早く素因数分解する方法を見つけ出すかもしれないからです。

2000年以上の間、数学者が素因数分解の近道を見つけ出そうとしては失敗してきた歴史があり、本来的に難しい作業ではありますが。

 

そして、これを力技で解いてしまう可能性を持ったものが量子コンピューターです。

冒頭の話に戻りますね。

 

量子コンピューターが実用化されれば、これまで用いられてきた暗号の基盤が揺らぐこととなります。

1万年かかっていた計算が3分で終わる、と聞けばそれは一目瞭然でしょう。

 

今後、暗号の未来はどうなっていくのでしょうか。

 

本書では「量子暗号」という対抗概念を提示していますが、暗号作成者と暗号解読者の戦いはこれからも続いていきそうです。

 

私も、別の本を読んで、量子コンピューターの勉強をしなければ。

 

 

ではでは。